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ガーデン・パーティ

はじめに

白杖しますが、まともにマンスフィールドとしっかり向き合ったのは今回が初めてです。

風が吹いたら、たんぽぽの綿毛のように飛んでいきそうなほど繊細な文章。敢えて曖昧にし読者に判断を委ねる文章。レンブラントの絵のように、登場人物たちの感情や、情景を、肌で、温度で、感じられる描写。

触れると割れてしまうガラス細工のようなこのThe Garden Partyでは、どこまで削り落とした日本語で表現するかということが、最後まで私を悩ませました。

私がここで語れることはあまりありません。『翻訳者ノート』のページで詳しく説明するつもりですが、正直いうと、The Garden-Partyを翻訳している間は、どっぷりと世界に浸っていたので、あまり覚えていません。というのも、マンスフィールドの英文は表現があまりにも綺麗で『うまい』。だからサクサク指が動く、私の頭の中の未調整の状態で、勝手に私の理解を押し付ける形で文字化される。「これはあかん…」だからいらないものを削り落とす、そうやってマンスフィールドの世界を日本語で再現することに努めました。

マンスフィールドの本文を読めば、翻訳していた時の私の気持ちがわかってもらえると思います。

January, 2026
Motoko Millum

キャラクター・ヴォイス・プロファイル

作品に登場する主要なキャラクターの話し方、感情のトーン、そして使用する語彙や文体に関する一貫したガイドライン。「このキャラクターがこのセリフを言う時、日本語としてどういう語彙や文体を当てるべきか」を決定する羅針盤

1. ローラ

少女から大人への移行時期、多感
外の世界は何も知らない。’ignorance is bliss’、箱入り娘
無邪気
「階級」というシステム疑問を持ち始めるが簡単に自分の階級の居心地の良さに戻る
緊張すると吃る
声はソフト、少しゆっくり目
労働者との階級の違いを出すため、「お上品」にする

2. ローリー

典型的な「優しいお兄ちゃん」
ローラを誉めているときは本気で誉めている
声はとても穏やか、愛情に満ちている、少しゆっくり目

3. シェリダン夫人

娘を鳥籠に閉じ込める母親
「下」の階級の人間のことはまったく考えていない
典型的「上流階級」
声は少し高め、ハキハキしている

4. 労働者階級の人々 - 労働者、ガドバーの従業員、セイディ、コック、ご近所の人々など

カジュアル、気さく
昔の日本語訳にあるような不自然な「労働者」の口調は使用しない
個々のキャラクターのその時の感情によって都度トーンを調整

翻訳者ノート — 私の思考プロセス

オートクチュール

’They could not have had a more perfect day for a garden-party if they had ordered it. ’

このif ordedを忠実に訳せば「もし注文したら」という意味になるが、シェルダン家は上流階級、上流階級は天気さえも「しつらえる」ことができる。このニュアンスを出すにはただの「注文」では弱く感じる。注文…注文… オートクチュール…voilà!完全オーダーメイドの一点もの。ガーデンパーティにベストなお天気をカスタマイズして注文。これぞ上流階級の特権意識、シェルダン家の特権意識を表現する言葉。意味を捻じ曲げているわけでも、着色しすぎている…とは思わない。これはあくまでも”Exquisit” な調整だ。

明るい金色=ふんわりとした金色?

’ Windless, warm, the sky without a cloud. Only the blue was veiled with a haze of light gold, as it is sometimes in early summer.’

“Light gold” , 直訳すれば「明るい金色」…なんか違う。「ふんわりとした金色」はどう?...これなら単なる視覚情報である霞が肌で感じる「心地よい暖かさ」を呼び込むことができる。それに霞ってふわっとしてる…よし、これでいこう。

オノマトペの力

このマンスフィールドのイキイキとした躍動感や雰囲気を伝えるのに、原文の単語のもつ日本語の意味をそのままつかっても伝えきれないケースが多々ある。そこで、オノマトペの出番。今回改めてオノマトペの威力を思い知った。
例えば、天幕をはりに来た作業員のセリフで’you want to put it somewhere where it’ll give you a bang slap in the eye, if you follow me.’’というものがある。この中の’a bang slap in the eye’は、「ど真ん中、ピンポイントで目立つように置く」という意味になるが、それを会話の中で表現するには、説明的になりすぎる。普段こういう時、私たち日本人はオノマトペを使用する。私がつけた訳は「どこかバーンっと目に入るところにドカンと置きたいでしょ」バーンとドカンで目立つようにピンポイントで置くというのが表現される。そのほかにも、”quick steps”をせかせかとした足音など、オノマトペでその動きのリズムもつくることができる。ありがとう、オノマトペ。

Lifeの二つの意味

’ isn’t life—’

このLifeが厄介者だ。このLifeをどう訳すか。The Garden PartyでのLifeは明らかに2つの側面を持っている。「人生」と「命」だ。英語ではLife一つでこの二つの意味をカバーしているが、日本語はふたつに分かれている。ワイルドの「幸福な王子」でも同じ問題にぶつかった。Heartだ。「心」と「心臓」。私の決断は「ハート」とすることだったが、Lifeを「ライフ」とすることはできない。ここでLifeという単語が何を統括しているかを考える。「労働者たちの生活」「上流階級の虚飾」「死」。日本語でこれを表現できるのは…「生きる」。これ以外は思い浮かばなかった。

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ガーデン・パーティ

キャサリン・マンスフィールド・著
ミラム・モトコ・訳

そうして結果は、申し分のない天気だった。まるでオートクチュールのように、ガーデンパーティにはうってつけの一日だった。風はなく、温かで、雲一つない空。唯一、青空だけがふんわりとした金色の霞で覆われていたが、これは、初夏に時折見られる光景だ。庭師は夜明けと共に起きだして、芝を刈り、掃き続け、ついには芝や、地面に手を広げ、花を失いくすんで平らなデイジーの葉までもが、磨き上げられたかのように見えた。 バラはと言うと、ガーデンパーティで、ゲストの心を打つ唯一の花は自分たちだと、疑うまでもなく、誰もが知っている唯一の花は自分たちだと理解しているように思えてならなかった。何百本、そう、文字通り何百本というバラが一夜にして咲き乱れ、緑の茂みはまるで、大天使が訪れたかのように深くお辞儀をしていた。

朝食が終わらないうちに、男たちが天幕を張りにやってきた。
「天幕はどこがいいかしら、お母様。」
「それはね、私に聞いても無駄よ。今年はあなた方、子供たちに全てを任せると決めたの。私があなたの母親だということは忘れてちょうだい。私のことは大切なお客様だと思ってちょうだい。」

しかしメグは、とてもじゃないが男たちへの指揮には行けなかった。朝食前に髪を洗い、座って緑のターバンを頭に巻き、両頬には濡れた黒いカールがぺったりと押し付けられた姿でコーヒーを飲んでいた。蝶のようなジョゼは、いつも決まってシルクのペチコートに、着物を羽織った姿で降りてきた。
「あなたが行って、ローラ。芸術センスがあるのはあなたよ。」

ローラは外に飛び出した。ブレッド&バターを握ったまま。屋外で食べる理由ができるなんて最高の気分だし、何よりも何かを準備することが大好きだった。自分なら他の誰よりも、ずっとうまくやれるのにと常に心で感じていた。

シャツ姿の男たち4人が、庭の小道に集まって立っていた。キャンバス布が何重にも巻かれ膨れ上がった棒を担ぎ、背中にはとても大きな工具袋を背負っていた。彼らは堂々として見えた。ローラはブレッド&バターを手にしていることを後悔したが、パンとバターを置いておく場所はなく、捨てるわけにもいかない。顔を赤らめ、男たちに近づきながら厳しい表情を装い、少し目が悪いふりまでした。
「おはようございます。」母親の声を真似るように言った。
しかし、その声は、呆れるほどツンとして、幼い少女のようにどもっていた。「あ、あの…いら、いらっしゃったのは、天幕のことででしょうか?」
「その通りですよ、お嬢さん。」と一番背の高い、ひょろっとしたそばかす顔の男が答え、工具袋の位置を直し、麦わら帽を後ろにやって、彼女を見下ろしながら微笑んだ。「まぁ、そんなところです。」

男の笑顔は屈託がなく、とても親しみやすかったので、ローラは自分を取り戻した。なんて素敵な目、小さいけど、とても深い青色!そして他の男たちにも目を向けると、彼らも笑顔を浮かべていた。彼らの笑顔は、あたかも「元気出して、俺たちは噛みついたりしないから。」と言っているように思えた。職人さんたちって、なんて感じがいいんだろう!そしてなんて素敵な朝なの!朝のことは口にするべきじゃなかった。手際よくしなきゃ。天幕よ。
「ユリの芝生は?あそこはどうかしら?」

ブレッド&バターを握っていない手でユリの芝生を指さした。男たちは振り返り、指さす方向をじっと見た。小太りの男が下唇を突き出し、長身の男は渋い顔をした。
「気に入らないな。」と長身の男は言った。「しっかり目立たないんですよ、ほら、天幕みたいなものはね。」と気さくな感じでローラの方に向いた。「天幕は、こう、どこかバーンっと目に入るところにドカンと置きたいでしょ、俺の言ってること、分かります?」

ローラの育ちからすると、職人がローラを相手に、ドカンと置くなんて言い方をするのは、はしたないのではないかと一瞬疑問に思われた。が、男の言おうとしていることは十分理解できた。
「テニスコートの隅は?」とローラは提案した。「でも、楽団が角に配置されるの。」
「はぁ、楽団を呼ぶんですか?」職人の一人が言った。その男は青白く、黒い瞳がテニスコートをじっと見つめるその顔は疲弊していた。何を考えていたんだろう?
「ごく小さな楽団よ。」ローラは穏やかに言った。ごく小さな楽団だったら、もしかしたらこの人はあまり気にしないかもしれない。しかし、長身の男が口を挟んだ。
「あのね、お嬢さん、あそこですよ。木を背中にするところ、あそこだ。あそこなら完璧だ。」

カラカを背にする。そうするとカラカの木が隠れてしまう。大きく広がりまばゆい葉と、黄色い果実の房はとても素敵なのに。カラカは、無人島で育ち、凛々しく、ひとりぼっちで、一種の静かな輝きの中で、葉と果実を太陽に向かって掲げている姿を想像してしまうような木なのに。天幕で隠されないといけないの?

隠さなきゃならない。すでに男たちは棒を担ぎ、そこへ向かっていた。長身の男だけが残っていた。しゃがんでラベンダーの小枝を摘み取り、親指と人差し指を鼻にあて香りを嗅いだ。ローラは、男がそのような物ーラベンダーの香りに関心を寄せるその姿に驚き、カラカのことはすっかり忘れてしまった。
ローラの知るうちの何人の男が、そんなことをするだろうか。あぁ、なんて職人さんって、すごく素敵なの、とローラは思った。なぜローラは、ダンスを一緒に踊ったおばかな少年たちや、日曜日の晩餐にやってきた人たちなんかよりも、職人さんたちとお友達になれないのか?ローラはそのような男たちとの方がずっと仲良くなれたのに。

長身の男が封筒の後ろに何やら、吊り上げるか、垂れたままにしておく何かを描いている間に、ローラはこれはくだらない階級差別のせいよ、と結論づけた。まぁ、ローラに関して言えば、そんな物は感じなかった。少しも、かけらも。そして木槌のトントンと叩く音が聞こえてきた。誰かが口笛を吹き、誰かが大声で叫んだ。「大丈夫か、相方?」
「相方!」友情溢れる呼びかけ、その—その—どれほど自分が幸せかを証明するため、どれほど温かい気分を感じているかを、そしてどれほどくだらないしきたりに対して嫌悪感を抱いているかを長身の男に見せるために、ローラは男の描いた小さな絵を見ながら、ブレッド&バターにガブリと齧り付いた。なんだか、自分が働く娘になったように感じた。

「ローラ、ローラ、どこなの?電話よ、ローラ!」家から大きな声が聞こえる。
「今行くわ!」ローラはひらりと、芝生を超え、小道を駆け抜け、階段を駆け上がり、ベランダを横切ってポーチの中へ入った。ホールではローラの父親とローリーが、帽子にブラシをかけ、事務所へ行く準備をしていた。
「ローラ、あのさ、」とローリーは口早に言った。「お昼前に僕のコートをちょっと見てくれないかな。アイロンをかけないとだめかどうか。」
「見とくわ。」とローラは言った。突然、衝動に駆られた。ローリーへ走り寄り、小さくて短いハグをした。「私パーティって大、大、大好き、ローリーもでしょ?」とローラは息を弾ませた。
「かなり、ね。」とローリーは、暖かく男の子らしい声で言い、妹をぎゅっと抱きしめ、優しく離した。
「ほら、電話へ急げ。」

電話だ。「はい、はい、そうです。キティ?おはよう。ランチに来る?来て。もちろん嬉しいわ。ごくごく簡単なものよ。サンドイッチの耳と、崩れたメレンゲ・シェルに、あとは残り物。そうね、最高の朝じゃない?あなたの白の?えぇ、私だったらもちろんよ。ちょっと待って、電話を切らないで。お母様が呼んでる。」そしてローラはゆったりと座った。「何、お母様、聞こえないわ。」

シェリダン夫人の声が、階段を流れてきた。「キティに、先週の日曜日に持っていたかわいい帽子をかぶるように言ってちょうだい。」
「お母様がね、あなたが先週の日曜日に持っていた、あのかわいい帽子、被りなさいって。よかった。1時ね、じゃあね。」

ローラは受話器を置き、頭の上へ両腕をすっと上げ、深く息を吸い込み、グッと伸ばしてストンと下ろした。「はぁ。」とため息をつき、その直後に素早く背筋をすっと伸ばして座った。ローラはまだじっと耳を澄ましていた。家中のドアというドアが開け放たれているようだった。家は穏やかな、せかせかとした足音、そして駆け抜ける声で活気に溢れていた。キッチンへと続く緑色をしたベーズのドアが、鈍い音を立てながら、ぱっと開いては閉じていた。そこへ、次は長く、くすくすと笑うようなおかしな音が聞こえてきた。それは重いピアノの固まったキャスターが動く音だった。でも空気が!立ち止まり意識を向けたら、空気はいつもこんな感じだったのかしら?微かに吹く風が追いかけっこをしている。窓の上部から入り、ドアから出ていく。そしてとても小さな陽の光の点も、一つはインク壺に、そしてもう一つは銀の写真立ての上で、また遊んでいた。愛らしい小さな点。特にインク壺の蓋で遊んでいるほう。それはとても暖かかった。温かい小さな銀色のお星様。ローラはそれに、キスさえできたかも知れない。

玄関のドアベルが鳴り響き、階段でセイディのプリントスカートがかさかさと擦れる音がした。男が何やら言っている声がする。セイディがどうでもよさそうに答える。「私が知るわけないでしょ。待って、奥様に聞いてくるわ。」「どうしたの、セイディ?」ローラがホールにやってきた。
「花屋です、ローラ様。」

確かにそうだった。そこ、ドアのすぐ内側には、ピンクのユリの鉢植えでいっぱいの、幅があって浅いトレイが置かれていた。他の花はない。ユリだけ。カンナ、大きなピンクの花が、大きく開き、輝いて、まぶしいクリムゾン色の柄の上で怖くなりそうなくらい生きていた。

「あら…ら、セイディ…。」ローラは言った。それは小さくうめくような声だった。ユリの炎で暖をとるようにしゃがみ、指や、唇や、胸の中でユリが育っているのを感じた。
「何かの間違いよ。」と弱々しく言った。「だれもこんなにたくさん注文してないわ。セイディ、お母様を探してきて。」

しかし、そこへシェルダン夫人が二人に加わった。
「何も問題ないわ。」と落ち着き払って言った。「そうよ、私が注文したの。きれいでしょ?」とローラの腕を押した。「昨日お店の前を通りがかって、ウィンドウに飾られているこの花たちを見たのよ。そしたらね、突然、一生に一度もういらないというくらいのカンナを手にしてやろうと思って。ガーデンパーティはいい口実になるわ。」

「でも、口出ししないっておっしゃらなかった?」ローラは言った。セイディはもういなかった。花屋の男はまだ、外の車のところで待っている。ローラは腕を母親の首にまわし、優しく、とても優しく、母親の耳を噛んだ。
「私のかわいいローラ。あなた、理屈っぽい母親はいやでしょ?そんなことしないの。あ、来たわ。」

花屋の男は、さらにもっとたくさんのユリを運んできた、別のトレイにいっぱいの。
「ドアのすぐ内側、ポーチの両脇に積み上げてちょうだい。」とシェルダン夫人は言った。
「そうでしょう、ローラ?」
「えぇ、その通りよ、お母様。」

客間では、メグ、ジョゼ、そして気立のよい小柄なハンスがとうとうピアノを動かすことに成功していた。
「次は、ソファを壁に押しやって、椅子以外のものは全て部屋の外へ出してしまいましょう。どう?」
「かしこまりました。」
「ハンス、テーブルを喫煙室に持って行って、それから掃除機を持ってきて、このカーペットについた跡を取ってちょうだい。あ、ちょっと待って、ハンス。」ジョゼは使用人に命令をするのが大好きだった。使用人たちもまた、彼女に従うことが大好きだった。ジョゼはいつも、彼らをお芝居に出ているかのような気分にさせていた。「お母様とローラにここに今すぐ来るように言ってちょうだい。」
「かしこまりました、ジョゼお嬢様。」

メグの方を向き、「ピアノの音が聞きたいわ。今日の午後、歌うようにお願いされた時のためにね。”この人生にはうんざり”をお願い。」ジャン!タララ〜タタ!ピアノは突如情熱的な音を叩き、ジョゼの顔つきが変わった。両手をしっかりと握った。悲しげに、謎めいたように、部屋に入ってきた母親とローラを見た。

この人生にはうんざり、
涙とため息、
移ろいゆく愛、
この人生にはうんざり、
涙とため息、
移ろいゆく愛、
そうして…さようなら!

“さようなら”のところで、そしてピアノはいまだかつてないほど絶望的な音を奏でたが、ジョゼの顔は、突然キラキラと、恐ろしく共鳴していない笑顔になった。
「私、いい声してるでしょ、ママ。」と笑顔で言った。

この人生にはうんざり、
望みは果て、
目ざ〜める夢

しかしそこへ、セイディが口を挟んだ。「どうしたの、セイディ?」
「もしよろしければ、奥さま、コックがサンドイッチに立てる旗をお持ちですかと。」
「サンドイッチに立てる旗ですって、セイディ?」シェルダン夫人はうっとりしながら繰り返した。子供たちは母親の顔つきから、旗を持っていないことを確信した。「そうねぇ。」そして夫人はセイディにきっぱりと言い放った。「コックにあと10分で渡すと伝えてちょうだい。」
セイディは出て行った。

「さぁ、ローラ、」母親は早口で言った。「喫煙室に私と一緒に来て。封筒の裏のどこかに名前を書いてあるの。それを書き写してちょうだい。メグ、今すぐ上に行ってその濡れたものを取ってちょうだい。ジョゼ、急いで着替えて。私の言ったことが分かる?それとも、今夜お父様がお戻りになったら、お話しないといけないかしら。それから…ジョゼ、もしキッチンに行くことがあれば、コックをなだめてちょうだい。今朝はコックに怯えているのよ、私。」

ようやくその封筒は見つかったが、どうやったらそんなところに封筒が行き着くのか、シェルダン夫人には想像もつかなかった。

「子供たちの誰かが私のバッグから盗んだのね。鮮明に覚えているのよ、クリームチーズとレモンカードをね。書いた?」
「ええ。」
「卵と…」シェルダン夫人は、ローラから封筒を遠ざけた。「miceみたいに見えるわ。mice(ネズミ)なわけ、ないわよね?」
「オリーブよ。お母様。」母親の肩越しに覗きながらローラは言った。
「そうだわ、オリーブ。なんて酷い組み合わせかしら。卵とオリーブなんて。」

ようやく完了し、ローラは書き写したものをキッチンへ持って行った。キッチンには、まったく怖い人には見えないコックを、ジョゼがなだめていた。
「私、今までにこんな繊細なサンドイッチ、見たことないわ。」熱のこもった声でジョゼは言った。「何種類あるって言ってたかしら、15種類?」
「15種類です、ジョゼお嬢様。」
「そう、コックさん、私からあなたに称賛の言葉を送るわ。」

コックは長いサンドイッチナイフで耳を綺麗に切り取り、屈託なく笑った。
「ガドバーが来ました。」とパントリーから出ながら、セイディが知らせた。窓を通り過ぎる男を見たのだ。

それは、シュークリームが届いたことを意味した。ガドバーはシュークリームで有名だった。誰も家で作ろうなんて考えもしなかった。

「中に持ってきて、テーブルの上に置いておくれ。」コックが指示した。
セイディはシュークリームを運び入れ、ドアに戻った。もちろん、ローラとジョゼは、そのようなものに気を取られるには、大人になりすぎていた。それでも、シュークリームはとても魅力的に見えるということは、認めざるを得なかった。コックはシュークリームをアレンジ、アイシングの砂糖を振りかけていった。

「シュークリームを見ると、今までのパーティが蘇らない?」
「まぁ、そうね。」現実的で、昔を思い出すのが好きではないジョゼはいった。
「本当に、とても軽くてふわふわしてる。」
「おひとつづつどうぞ。」と耳に心地良い声で言った。「奥様にはバレませんよ。」

え、そんなの無理よ。朝食後すぐに極上のシュークリームなんて。その考えには身震いがしたが、それにも関わらず、2分後にはジョゼもローラも、ホイップクリームからしか表れない、あの夢中になった内向きの表情を浮かべて指を舐めていた。

「お庭に行きましょう、裏口から。」ローラが誘った。「職人さんたちの天幕の進み具合を見たいわ。あの人たち、とても感じがいいのよ。」

しかし、裏口はコック、セイディ、ガドバーの従業員とハンスで塞がれていた。
何かが起こった。
「くっ、くっ、くっ」と動揺した雌鶏のような音で喉を鳴らした。セイディは歯が痛いかのように手で頬を軽く叩いた。ハンスの顔は、理解しようとくしゃくしゃになっていた。唯一、ガドバーの従業員だけが楽しんでいるように思われた。彼の話だったのだ。

「どうしたの?何が起こったの?」
「酷い事故があったんですって。」とコックはいった。「男が死んだって。」
「男の人が死んだですって!どこで?どうして?いつ?」
しかし、ガドバーの従業員は、自分の話題を鼻先で持っていかれるつもりはなかった。

「ここから少し下ったところにある小屋をご存知ですか、お嬢さん?」知ってるかって?もちろんよ。ローラは知っていた。「それがね、そこに住んでる若い男がいたんですよ、スコットって名前の荷馬車の運転手がね。ヤツの馬がトラクションエンジンに驚いて、今朝、ホーク通りの角で起きたんですけどね、馬の背中から、頭からほうり出されちまって。死んじまいました。」

「死んだ!」ローラはガドバーの従業員をまじまじと見つめた。
「ヤツの体を拾い上げた時にはもう死んじまった後で。」とガドバーの従業員は嬉しそうに言った。「俺がここに来る時に、ちょうど遺体を家へ運んでましたよ。」
そして従業員はコックに言った。「嫁とチビ5人残していっちまった。」

「ジョゼ、ちょっと。」ローラは姉の袖を掴み、キッチンを通って緑のベイズの扉の向こう側に無理やり引きずように連れて行った。そこで立ち止まり、ドアにもたれかかった。「ジョゼ!」と恐ろしそうに言った。「一体どうやって全部、止めたらいいのかしら?」
「全部止めるですって、ローラ!」あっけに取られてジョゼは大きな声で叫んだ。「どういう意味?」
「ガーデンパーティを中止するのよ、もちろん。」なぜジョゼは分からないふりをするんだろう?

しかしジョゼはまだ、さらに驚いていた。「ガーデンパーティを中止するって、あのね、ローラ、バカなこと言わないの。私たちはそんなこともちろん出来るわけないの。誰もそんなこと私たちに期待してないの。そんな大袈裟なこと言わないで。」
「でも、表門のすぐ外で男の人が亡くなったのに、ガーデンパーティなんてできるわけないじゃない。」

確かに大袈裟だった。小さな小屋は、自分たちの家へと続く急な坂のふもとの小道に建っていたのだから。 広い道路が間を走っていた。確かに近すぎた。これ以上目障りなものはなく、この地域にいる権利はなかった。小さなチョコレートブラウンの色をした見窄らしい家だった。小さな庭には、キャベツの茎、病んだ雌鶏とトマトの缶詰のみ。煙突から出るその煙は、貧困に喘いでいた。細切れの煙は、シェルダン家の煙突から真っ直ぐに立ち上る銀色の大きな煙柱とは似ても似つかない。
小道には洗濯屋の女が住み、煙突掃除人たち、靴職人、そして、小さな鳥籠が全面に鋲打ちされた外構えを持つ家に住む男もいた。子供たちは群がっていた。シェルダン家の子供たちは幼い頃、不愉快な言葉や、かかってしまうかもしれないもののために、そこに立ち入ることは禁じられていた。しかし、子供たちが成長してからは、ローラやローリーはぶらぶらしながら、しばしばそこを通り抜けた。その場所は、むさ苦しく不愉快だった。二人は身震いしながら出てきた。しかし、それでも人はあらゆる場所へ行き、全てを見るべきだ。それで二人は通り抜けた。

「あのかわいそうな女性に、楽団がどんな風に聞こえるか考えてみてよ。」
とローラは言った。 「もう、ローラ!」ジョゼは本気で苛立ち始めた。「もし誰かが事故に遭う度に楽団の演奏を止めていたら、大変な人生を送ることになるわよ。私だってあなたと同じくらい、気の毒に思ってるわよ。同じくらい同情してるわ。」ジョゼの目つきは厳しくなった。幼い頃喧嘩したときとまったく同じ目つきで、妹を見た。「情に脆くなっても、酔っ払いの労働者はこの世に戻って来ないのよ。」と優しく言った。

「酔っ払い!誰があの男の人は酔ってたって言ったの?」ローラは猛烈にジョゼに反発した。昔、似たような場面でよく言っていたように、「お母様に言いに行くわ。」とローラは言った。
「どうぞ。お好きに。」ジョゼは優しくささやいた。

ローラが驚いたことに、母親はほぼジョゼと同じ態度をとった。母親が楽しんでいるように思え、それに耐えることはもっと困難だった。母親は、ローラを真剣に受け止めることを拒んだ。
「でもね、常識的に考えてちょうだい。私たちが聞いたのはただの偶然でしょう。もし誰かが自然に亡くなったとしても…あんな狭苦しい小さな穴でどうやって暮らせるのか私には理解できないけれど…パーティは開いているはず、でしょ?」

ローラはYesと言わなければならなかったが、完全に間違っていると感じた。ローラは母親のソファに腰掛け、クッションのフリルを摘んだ。
「お母様、それって、ひどくないかしら?」
「まぁ!」シェリダン夫人は立ち上がり、帽子を持ってローラの所に来た。ローラが止める前に、母親はポンと乗せた。「まぁ!」と母親は言った。「この帽子はあなたのだわ。あなたのために作られたのよ。私には若すぎるわ。こんな絵のような姿のあなたを今までに見たことがない。ちょっと、自分の姿を見て!」そして自分の手鏡を持ち上げた。
「でも、お母様、」ローラはまた始めた。ローラは自分の姿を見ることはできず、顔を背けた。

この時は、シェルダン夫人はジョゼのように根気を失った。
「あなたどうかしてるわよ、ローラ。」母親は冷たく言った。「ああいう人たちは、私たちからの犠牲は求めてないの。それに、あなたが今しているような、みんなの楽しみを台無しにするようなことをするのは、思いやりに欠けているわ。」

「分からない、」とローラは言い、素早く部屋を出て自分のベッドルームへ向かった。そこで、まったくの偶然で、ローラが初めに目にしたものは、鏡に映る、金色のデイジーと、長い黒のベルベットのリボンで飾られた黒い帽子を被った愛らしい少女だった。ローラは今までに、自分がこんなふうに見えるなんて想像したことはなかった。お母様が正しいの?とローラは思った。そして今は、母親が正しかったと望んでいる。私、大袈裟なのかしら。たぶん行きすぎだったのかも。ほんの一瞬、あのかわいそうな女性と小さな子供たち、そして家に運び込まれた遺体のことがちらりと脳裏に浮かんだ。しかしそれは全て、新聞の写真のようにぼんやりと、現実離れしているように思われた。
パーティが終わった後に、もう一度思い出そうと決めた。そしてどういうわけか、それは最善の案に思われた…

ランチは1時30分に終わった。2時30分までにはみな、戦いの準備は整っていた。緑のコートを着た楽団が到着し、テニスコートの角に落ち着いていた。
「ねぇ、ちょっと!」キティ・メイトランドが囀った。「楽団の人たち、まるでカエルみたいじゃない?池の周りに彼らを置いて、中央の葉っぱの上に指揮者を乗せるべきよ。」

ローリーが到着し、着替えに向かう途中で二人に声をかけた。ローリーの姿を見て、また事故のことを思い出した。ローラはローリーに話したかった。もしローリーが他の人たちと同じ考えなら、大丈夫。ローラはローリーを追いかけ、ホールへ入った。

「ローリー!」
「やあ!」ローリーは階段を半分のぼったところだったが、振り向いてローラを見ると、突然頬をぷぅと膨らませ、驚いて目を大きく見開いた。「うそだろ、ローラ!ものすごく綺麗だよ、」とローリーは言った。「すごく素敵な帽子だ!」
ローラは弱々しく言った。「そう?」ローリーに向かって微笑み、結局ローリーには言わなかった。

間もなくして、ゲストたちが流れになってやって来た。楽団は演奏を始め、雇われたウェイターたちは屋敷から天幕へ駆け抜けた。どこを見ても、カップルたちがゆっくりと歩き、花に向かって身をかがめ、挨拶し、芝生の向こうへ向かって行った。彼らは、シェルダン家の庭に、この午後のために降り立った鮮やかな鳥たちのようだった。どこへ—向かう途中なんだろう?幸せな人たちに囲まれ、手を握り、頬を寄せ合い、瞳の中に微笑みかけるのって、なんて幸せなことなんだろう。

「ローラ、元気そうね!」
「帽子がすごく似合ってるわ!」
「ローラ、あなたスペイン人みたい。今までに、こんなにも目が眩むようなあなたを見たことがないわ。」
そしてローラは顔を赤め、穏やかに答えた。「お茶は召し上がって?氷は?パッションフルーツの氷は本当に特別なのよ。」ローラは父親の元へ駆け寄りお願いした。「パパ、お願い、楽団のかたたちに何か飲み物を差し上げてもいい?」
そしてその完璧な午後は、ゆっくりと熟し、ゆっくりとしおれ、ゆっくりとその花びらを閉じた。

「こんな愉快なガーデンパーティは他にはない…。」「大成功ね…。」「まさに最高の…。」
ローラは母親とゲストのお見送りをした。最後の一人が帰るまで、ポーチに二人並んで立った。
「終わった、完了よ。あぁ、ほっとした。」とシェルダン夫人は言った。「みんなを集めてちょうだい、ローラ。入れたてのコーヒーをいただきましょう。あぁ、疲れた。そうね、大成功よ。でも、あぁ、パーティって、パーティって!どうしてあなたたち、子供たちはパーティをそんなにやりたがるのかしら。」そして皆が人気のない天幕の中に座った。

「パパ、サンドイッチをどうぞ。私が旗を書いたのよ。」
「ありがとう。」シェルダン氏が一口齧るとサンドイッチは無くなった。もう一つ手に取った。「お前たちは、今日起きた忌まわしい事故のことは聞いてないんだろうね。」
「あなた、」手をあげて、シェルダン夫人は言った。「聞きましてよ。もう少しでパーティが台無しになるところだったのよ。ローラが延期しろって言い張って。」
「まぁ、お母様!」ローラはそのことでからかわれるのは嫌だった。
「それでもやはり、悲惨なことには変わりはない、」シェルダン氏言った。「男は既婚者だったそうだ。小道をちょうど下ったところに住んでいて、妻と6人の子供がいたらしい。」

気まずい少しの沈黙が流れた。シェルダン夫人はカップをいじった。まったく、本当に無神経なんだから…。

突然夫人は顔を上げた。テーブルの上には、サンドイッチ、ケーキ、手が付けられていないもの、これらはすべてゴミになる。夫人は素晴らしいアイディアを思いついた。
「そうよ、」夫人は言った。「バスケットを用意して、あのかわいそうな人にこの立派なお料理を届けてあげましょう。いずれにせよ、子供たちには大変なご馳走になるわ。そう思わない?奥様のところにご近所がお悔やみに見えたりするでしょうし。全て準備されてるなんて、なんてタイミングかしら。ローラ!”夫人はすっと立ち上がった。「階段下の戸棚からバスケットを持って来てちょうだい。」
「でも、お母様、本当にそれがいい考えだと思う?」とローラは言った。

再び、興味深いことに、彼女は他の人たちと違っていたようだ。パーティの残りものをかき集める。可哀想な未亡人はそんなことをされて、本当に嬉しいかしら。
「もちろんよ!あなた、今日は一体どうしたの?ほんの1-2時間前は、同情しろって言い張ったかと思えば…」
まぁ、いいわ!ローラはバスケットを取りに走っていった。バスケットの中はいっぱいに、たくさん詰め込まれた。
「自分で持って行きなさい、ローラ。」と夫人は言った。「その格好で行ってらっしゃい。いや、ちょっと待って。カラーリリーも持っていって。あの階級の人たちはカラーリリーに感動するから。」
「ローラのドレスが茎で台無しになるわ。」と現実的なジョゼは言った。
そうでしょうね。ギリギリ間に合った。「じゃあ、バスケットだけね。あと、ローラ!」母親はローラを天幕の外まで追いかけ、「絶対に—、」
「何?お母様。」

だめよ、そんな考え子供の頭に植え付けないほうがいいわ!「なんでもない! さぁ、走っていってらっしゃい。」
ローラが庭の門を閉める頃には、ちょうど辺りは暗くなり始めていた。大きな犬が影のように走り去った。道は白くかすかに輝き、はるか下にある窪地の小さな小屋は、深い陰の中に潜んでいた。あの午後の後なのに、なんて静かなんだろう。死んだ男が横たわる場所へ丘を下っていたが、実感がわかなかった。なぜわかなかったのか。ローラは一瞬足を止めた。キスや、声や、スプーンがカチカチとたてる音、笑い声、踏まれた芝生の匂いは、どういうわけか、自分の中に存在しているように思われた。他の何かを受け入れるスペースは残されていなかった。なんて不思議なんだろう!淡い青空を見上げ、思ったことは「本当に、今までで一番素敵なパーティだったわ。」

広い道を超えた。煙たくて、暗い小道が始まった。ショールを羽織った女たちと、ツイードの帽子を被った男たちが足早に通りすぎた。柵にもたれかかる男たち、戸口で遊ぶ子供たち。見窄らしい家から低くがやがやした声が聞こえる。ある小屋では灯りがゆらめき、そしてカニのような影が窓を横切った。ローラは頭を下げ、先を急いだ。コートを着ていればよかったと後悔した。彼女のドレスがどれほど輝いていたか!そしてベルベットのリボンがついた大きな帽子。他の帽子だったらよかったのに!住民たちはローラを見ていただろうか?見ていたはずだ。ここに来たのは間違いだった。初めからこれは間違いだとわかっていた。今からでも戻るべきだろうか?

いや、もう遅い。これがその家だ。そうに違いない。外に立つ住民たちの暗い群れ。門の横には一人の年老いた、年老いた女が、松葉杖を持って座って見ている。新聞の上に足を置いていた。ローラが近づくと声は止まった。集まっていた人たちは道を開けた。まるでローラを待っていたかのように、あたかもローラがここへ来ることを知っていたかのように。

ローラはひどく緊張していた。ベルベットのリボンを肩越しに投げ、近くに立っている女に聞いた。「こちらはスコットさんのご自宅でしょうか?」聞かれた女は不自然な笑いを浮かべ、言った。「そうだよ、お嬢ちゃん。」

逃げ出してしまいたい!ローラは、玄関への小道を進み、ドアをノックしながら「助けて、神様。」と、実際口にした。じろじろと見る目から離れたい、もしくは何でもいいから身を覆って隠れたい、そこに立っている女の人のショールでも構わない。バスケットを置いたらさっさと出て行こう。とローラは決めた。バスケットが空になるのも待たないわ。

そうしてドアが開いた。黒衣に身を包んだ小柄な女が、薄暗がりに現れた。
ローラは言った。「スコットさんでしょうか?」ローラがぞっとしたことに、「どうぞ、お入りください、お嬢さん。」と女は答え、ローラは廊下に閉じ込められてしまった。
「いえ、」とローラは言った。「お邪魔したくありません。ただこのバスケットを残しておきたかっただけで。お母様が—。」

その薄暗がりの廊下にいる小柄な女は、ローラの声が聞こえていなかったように思われた。
「こちらへどうぞ、お嬢さん。」ねっとりとした声で言い、ローラは後に続いた。
ローラは惨めな天井の低い小さなキッチンで、煤けたライトに照らされている自分に気づいた。
女が一人火の前に座っていた。
「エム、」ローラを招き入れたその小さな生き物は言った。「エム!若いお嬢さんが来てくれたよ。」女はローラの方を向いた。女は意味ありげに言った。「私はあの子の姉です、お嬢さん。無礼を許してやってくれますよね?」
「そんな、もちろん!」とローラは言った。「お願い、お願いです、妹さんをそっとしてあげて下さい。私は— 私はただバスケットを—-」

しかしその瞬間、火のそばにいる女が顔を向けた。女は、腫れぼったく、赤く、腫れた目と唇、ひどい顔をしていた。あたかも、なぜローラがここにいるのかが理解できないようだった。どういうこと?なんでこの知らない人がバスケットを持ってキッチンに立ってんの?なんなんだい?惨めな顔は再びくしゃくしゃになった。

そして再び、女は始めた。「許してくれますよね、お嬢さん。」そして女の顔も腫れていて、ねっとりとした笑みを浮かべた。

ローラはただ出たかった、逃げ出したかった。廊下に戻った。ドアが開いた。ローラは真っ直ぐ寝室へと足を進めた。そこには死んだ男が横たわっていた。
「お顔を見たいんでしょう?」エムの姉は言い、ローラをかすめてベッドに近づいた。「怖がらないで、お嬢ちゃん。」—そして女の声は今度は愛情深く、そして狡猾に響き、優しくシーツを引き下げた。「まるで絵のようだ。傷一つない。こっちへおいで、お嬢ちゃん。」

ローラは近づいた。
そこには若い男が横たわっていた、深く眠って—あまりにも静かに、深く眠っていたため、彼は二人から遠く、遠く離れたところにいた。あぁ、とても遠く、とても穏やかに。彼は夢を見ていた。二度と彼を起こさないで。頭は枕に深く沈み、目は閉じられ、まぶたの下で何も見ていなかった。彼は夢に身を委ねていた。彼にとって、ガーデンパーティやバスケット、レースのドレスが何の意味を持つだろうか?彼はそれら全てから遠く離れていた。彼は驚くほど美しかった。人々が笑い、楽団が演奏している間に、この驚異が小道にやって来たのだ。幸せ…幸せ…。すべてがうまくいく、その眠る顔はそう語っていた。これでいいのだ。俺は満足している。

しかし、泣かなければならない。それに、ローラは男に何か一言かけずに部屋を出ることはできなかった。ローラは子供のように泣きじゃくった。
「私の帽子、許して。」と言った。
そして、この時はエムの姉を待たなかった。ドアから抜け出し、小道を下り、暗い住人たちを通り過ぎた。小道の角で、ローラはローリーに鉢合わせた。

ローリーが影の外へ姿を現した。「ローラ、君かい?」
「えぇ。」
「お母さんがだんだん不安になってきて。大丈夫だった?」
「えぇ、大丈夫。あぁ、ローリー!」ローラはローリーの腕を取り、体を押し付けた。
「ちょっと、泣いてないよね?」兄は訊いた。
ローラは首を振った。泣いていた。
ローリーは妹の肩に腕をまわした。「泣くな。」と温かい、愛情に溢れた声で言った。
「酷かった?」
「うぅん。」ローラはすすり泣きながら言った。「本当に素敵だった。でもローリー…」ローラは口ごもって「生きるって—」しかし生きるとは何なのか、ローラには説明ができなかった。どうでもいい。ローリーにはすっかりわかっていた。
「だね、ローラ。」とローリーは言った。

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